KIBAN株式会社|保険代理店の外部経営管理本部
業界動向

「お任せします」と言われたとき、代理店は何を決めておくべきか

——顧客の意向と推奨を「会社として」つなぐ

「よく分からないので、お任せします」。保険募集の現場で珍しくないこの一言は、比較推奨販売の見直しで最も判断が問われる場面の一つです。意向把握はすでに代理店の義務であり、いま問われているのは、把握した意向から推奨理由までを会社としてつなげられているかどうかです。本稿では、「お任せします」に代理店として迷わず応えるために、経営が決めておくべき四つのことを整理します。

現場でよくある「お任せします」

保険募集の現場では、こんな会話は珍しくありません。「どれがいいですか」「よく分からないので、お任せします」

経験豊富な募集人ほど、こうした場面で顧客に合いそうな商品を素早く選び、提案してきたのではないでしょうか。顧客にとっても、それが心強かった面があるはずです。しかし、比較推奨販売の見直しを考えるうえで、この「お任せします」は非常に重要な場面になります。

意向把握は、すでに義務である

最初に確認しておきたいことがあります。顧客の意向を把握することは、比較推奨ルールの改正を待つまでもなく、すでに代理店の義務です(保険業法第294条の2)。金融庁も、意向把握義務は今回の改正の対象外であり、現時点でも適時適切に対応する必要があると改めて示しています。

したがって、今回の見直しで問われているのは、意向を聞いているかどうかではありません。その先です。把握した意向から「なぜこの商品を勧めたのか」までを、会社としてつなげられているか。「お任せします」は、このつながりが最も試される場面です。

「お任せ」だけでは、推奨の理由にならない

「お任せします」という言葉から分かるのは、顧客が商品選択について代理店の助言を求めているということです。しかし、それだけで「何を重視して商品を選ぶのか」まで明らかになったとは限りません。だからこそ、「お任せ」と言われた場面ほど、代理店がどのように意向を確認し、どの基準で候補を絞るのかが重要になります。

実際、「お任せ」の奥には、顧客ごとに異なる重視事項があります。自動車保険であれば、保険料をできるだけ抑えたいのか、補償を充実させたいのか。事故対応を重視するのか、ロードサービスなどの付帯サービスを重視するのか。同じ「お任せします」でも、その背景は人によって違います。

その背景をどこまで確認するのか。そして、確認した内容をもとに、どの基準で選ぶのか。これを募集人の裁量に委ねたままにするのか、会社として決めておくのか。ここが分かれ目です。

募集人によって、結果が変わってしまう

経験豊富な募集人ほど、自分なりの判断軸を持っています。顧客との付き合いの長さ、過去の事故歴、商品知識、保険会社ごとのサービスの違い。これらを総合して「この商品が合う」と判断する力は、募集人の大切な能力です。

ただし、比較推奨販売の観点からは、一つ問題があります。同じような顧客でも、担当する募集人によって推奨結果が変わりうることです。Aさんが担当すればX社、Bさんが担当すればY社。しかも、なぜそうなったのかを記録から説明できない。こうなると、会社としてどのような基準で推奨しているのかが、誰にも分からなくなります。

募集人の経験を否定する必要はありません。必要なのは、その経験を会社として説明できる判断基準に変えることです。

代理店が決めておくべき四つのこと

では、「お任せします」と言われたとき、代理店は何を決めておけばよいのでしょうか。私は、少なくとも四つあると考えています。

1.何を聞くか

まず、顧客の意向を確認するために何を聞くのかです。保険料、補償内容、免責金額、付帯サービス、保険会社に対する希望など、確認すべき内容は商品によって異なります。すべてを機械的に質問すればよいわけではありません。商品群ごとに「最低限ここは確認する」という項目を決めておく必要があります。

2.どう選ぶか

次に、意向に合う商品の中から、何を基準に推奨するのかです。補償内容なのか、価格なのか、付帯サービスなのか。商品間の違いが小さい場合には、何を決め手にするのか。ここが曖昧なままだと、結局は募集人それぞれの判断に戻ってしまいます。

3.例外をどう扱うか

実務で最も判断が分かれるのが、ここです。顧客が長年同じ保険会社と取引してきた、事故対応で特定の保険会社に強い信頼を寄せている。現場には、基準どおりにはいかない事情が必ずあります。

例外を認めないことが正解ではありません。例外を認めるなら、どのような場合に、誰の承認で認めるのかを決めておく必要があります。例外を会社として把握できていれば、それは管理された判断になります。把握できていなければ、それは単なる基準からの逸脱です。

4.どう残すか

最後が記録です。何を聞いたのか。どの商品を候補にしたのか。なぜその商品を勧めたのか。どのような説明をしたのか。後から第三者が見ても、「顧客の意向 → 比較対象 → 推奨理由 → 説明」という流れが追える状態にしておく必要があります。

マニュアルやシステムの前に

ここでありがちなのが、「意向把握マニュアルを作ろう」「トークスクリプトを整えよう」という対応です。もちろん、どちらも必要です。しかし、その前に経営が決めておかなければならないことがあります。どこまで意向を確認するのか、どこまで比較するのか、何を推奨の基準とするのか、そして例外を誰が承認するのか、です。

これが決まっていなければ、マニュアルは書けません。システムも同じです。入力項目を増やせば解決するわけではありません。何を記録すべきかが決まって、初めてシステムの要件が決まります。

乗合代理店には、比較推奨販売を適切に行うための体制整備義務が課されています(保険業法第294条の3)。体制整備とは、書類をそろえることではなく、こうした判断の仕組みを会社の中につくることだと私は考えています。

個人の判断を、組織の判断へ

これまで多くの保険代理店は、「経験豊富な募集人なら適切に判断できる」という前提で成り立ってきました。それ自体は間違いではありません。しかし、拠点が増え、募集人が増え、取扱保険会社が増えるにつれて、個人の経験だけに頼るやり方には限界が出てきます。

これから必要なのは、優秀な募集人が持っている判断を、組織の判断に変えていくことです。誰が担当しても、同じ考え方で意向を確認し、同じ基準で候補を絞り、推奨理由を説明できる。例外があれば、その理由を会社として把握している。

「お任せします」と言われたとき、代理店として迷わず応えられる状態。それは、顧客に対して最も誠実な状態でもあるはずです。

関連コラム:募集モデル全体の見直しは「比較推奨販売対応は「募集モデル」の再設計である」を、取扱範囲の考え方は「取扱保険会社を減らせば、比較推奨対応は楽になるのか」を、体制整備の基本は「保険代理店の体制整備義務とは」をご覧ください。

「確認する項目も推奨の基準も、募集人ごとにばらばらになっている」

そうした段階でも構いません。現場の募集実態の棚卸しから、会社として決めるべき基準の優先順位まで、KIBANの30分無料相談で一緒に整理します。

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よくある質問

お客さまに「お任せします」と言われたら、募集人が選んで勧めてはいけないのですか

金融庁のパブリックコメント回答では、顧客が「あなたに任せる」「お任せで」などと述べた場合でも、その意思表示のみをもって乗合代理店が任意に特定の保険会社や保険契約を選別し、提示・推奨することは適切ではないとされています。保障(補償)内容、保険料水準、特約など、お客さまが重視し得る事項を確認して意向の明確化に努めたうえで、把握した意向に沿って選ぶことが求められます。

記録は、どこまで残せばよいですか

パブコメ回答では、意向把握の内容、提示・推奨の理由および説明内容について、事後的に確認・検証できるよう適切に記録・保存することが重要とされています。本文で触れた「顧客の意向 → 比較対象 → 推奨理由 → 説明」の流れが後から追えるかどうかが、一つの目安になります。

基準と異なる商品を例外として勧める場合、注意すべきことは何ですか

例外の理由が、お客さまの意向に基づくものかどうかです。パブコメ回答では、手数料水準、販売目標、保険会社からの便宜供与等の代理店側の都合により、特定の保険会社や保険契約へ誘導することは適切ではないとされています。例外の承認ルールを決める際は、この点を前提にしておく必要があります。

まとめ——KIBANからの提言

「お任せします」は、お客さまが代理店を信頼しているからこそ出てくる言葉です。その信頼に応えるには、募集人一人ひとりの経験に頼るだけでなく、何を聞き、どう選び、例外をどう扱い、何を残すのかを会社として決めておく必要があります。マニュアルやシステムは、その判断基準を現場で使える形にするための手段です。

KIBANは保険代理店の「外部経営管理本部」として、代理店自身が進める募集実態の棚卸しや推奨基準の整理を、実務経験をもとにお手伝いしています。個別の法的判断が必要な場面では、弁護士などの専門家と連携して対応します。

KIBANでは現在、比較推奨販売への対応について、「自社で何が決まっていて、何がまだ決まっていないのか」を経営者ご自身が整理できるチェックツールを準備しています。近日中に公開予定です。

参照した主な情報源

  • 金融庁「令和7年保険業法改正に係る内閣府令及び『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」(2026年8月28日) 公表ページ
  • 同 別紙1「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」 PDF
  • e-Gov法令検索「保険業法」(第294条の2、第294条の3) e-Gov法令検索
Management Support

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「商品群ごとに、最低限確認する項目を決めたい」「推奨の基準と例外の承認ルールを整理したい」「意向から推奨理由までを記録で追えるようにしたい」——そうしたご相談を承っています。まずは、いまの募集の実態を整理するところから始めます。

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