KIBAN株式会社|保険代理店の外部経営管理本部
業界動向

企業内代理店は、なぜグループ内に存在するのか

——ENEOSとコマツの事例から考える「存在意義」

2026年9月30日と10月1日、ENEOSとコマツの両グループで、保険代理店事業を外部へ移す発表が続きました。これに先立つ9月11日には、金融庁が企業内代理店に関する規制の再構築を含む監督指針の改正案を公表しています。二つの事例と改正案を手がかりに、企業グループがなぜ自らの内部に保険代理店を持つのか、その存在意義を考えます。

同じ週に、二つの発表

2026年9月30日と10月1日、大企業グループの保険代理店事業をめぐる発表が続きました。

一つは、マーシュ ジャパンによるENEOS保険サービスの株式取得と、ENEOSマテリアルトレーディングの保険代理店事業の取得です。5月15日に合意が公表され、9月30日に完了しました。ENEOS保険サービスは社名をEMIS保険サービスに改め、引き続きENEOSグループの従業員と関係会社に保険サービスを提供します。

もう一つは、豊通保険パートナーズによるコマツグループの保険代理店事業の譲受です。譲受対象はコマツコーポレートサービス(小松製作所の100%子会社)が運営する保険代理店事業です。契約締結は2026年6月30日、譲受の実行は2027年1月1日の予定で、対象業務は従業員向け保険、企業保険、保険契約管理等とされています。

一見すれば、いずれも大企業グループの事業整理にすぎません。しかし、保険代理店の経営という観点から見ると、二つの案件は同じ根本的な問いを投げかけています。

企業グループは、なぜ自らの内部に保険代理店を持つのか。

本稿では、この二つの事例を手がかりに、企業内代理店の存在意義を考えてみたいと思います。

受け手が違う――専門ブローカーと、商社系代理店

二つの案件は、どちらも「企業グループが自前の代理店を手放した」事例です。しかし、受け手と手法はまったく違います。

二つの案件の比較
ENEOSコマツ
受け手マーシュ ジャパン(グローバルな保険ブローカーグループ)豊通保険パートナーズ(豊田通商の100%子会社)
手法代理店会社の株式取得+別会社の保険事業部の事業取得保険代理店事業の事業譲渡
時期2026年5月15日合意、9月30日完了2026年6月30日契約、2027年1月1日実行予定

ENEOSの代理店は、保険とリスクマネジメントを本業とする専門会社の傘下に入りました。EMIS保険サービスという会社は存続し、ENEOSグループ向けのサービスも続きます。資本関係という意味で、企業グループの内から外部の専門事業者へ移ったのです。これに対しコマツの代理店事業の受け手は、商社グループに属する代理店です。代理店機能はコマツグループの外に出ましたが、行き先は独立系ではなく、別の大企業グループの中でした。

両社とも、手放した理由を説明しています。ENEOSグループは合意時の発表で、中期経営計画のもとでポートフォリオ再編を進め、保険によるリスクマネジメントをグループ全体で一元化・高度化する方針を検討してきたと説明しました。そのうえで、グループ内で代理店事業を続けるより、最適なパートナーのもとで強みを伸ばす方が、事業と従業員の成長につながると判断したといいます。コマツは、コマツコーポレートサービスが培ってきた代理店としての経験や知見を、豊通保険パートナーズの幅広い事業基盤のもとで活かすことが、安定的で質の高い保険サービスにつながると判断したとしています。

二つの事例を並べると、問うべきは「内製か外注か」だけではないことがわかります。同じ保険契約を、どこの代理店が扱うのか――自グループか、別の事業会社グループか、保険の専門会社か。この問いが、制度の側から重みを増しつつあります。

9月11日の改正案と、企業内代理店規制

金融庁は2026年9月11日、「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正案を公表しました。柱の一つが、企業内代理店に関する規制の再構築です。意見募集は10月13日17時までとされています。

焦点は特定契約比率規制です。損害保険代理店が、自らと人的・資本的に密接な関係を持つ者(特定者)を契約者等とする保険契約(特定契約)について、その募集を制限する規制です。取扱保険料に占める特定契約の割合が5割を超えると、自己契約の禁止(保険業法295条)の趣旨に照らして問題があるとされ、是正が求められます。改正案は、この規制を次のように見直すとしています。

  • 特定契約比率の計算対象種目を限定している経過措置を、2030年4月(適用日から約3年後)に撤廃する
  • 2032年4月に、特定者の範囲を、親会社が議決権の50%超を有する範囲まで拡大する
  • 一定の要件を満たす代理店には、規制の適用除外の枠組みを設ける

適用除外の要件は二つあります。一つは手数料の適正化です。企業内代理店が保険募集等にかかる原価等を算出して保険会社に報告し、保険会社がその原価等を踏まえて、保険料の割引・割戻しが生じない代理店手数料を算出します。保険会社はその手数料の妥当性等を検証し、親会社も必要に応じて、企業内代理店が算出した原価等の適切性を検証します。そうした仕組みが示されています。もう一つは態勢整備で、十分な実務能力を持ち、親会社等から自立していることが求められます。後者には、代理店自身が特定契約を把握・管理・報告できること、独占禁止法の遵守態勢、三線管理などのコンプライアンス態勢が含まれます。

ここで、前節の問いとつながります。特定者の範囲が、親会社が議決権の50%超を有する範囲まで広がれば、自グループの代理店が扱う関係会社等との契約は、特定契約として捉えられる範囲が広がります。他方、資本関係のない別グループの代理店に移管すれば、「自らと人的・資本的に密接な関係を有する者との契約」という企業内代理店規制の構造からは、少なくとも外れることになります(譲渡後も人的・資本的な関係が残る場合は別です)。契約の中身は同じでも、誰が扱うかで規制上の位置づけが変わるのです。

結び付けすぎないために

ただし、二つの案件がこの改正案を受けたものだと考える根拠はありません。ENEOSの合意公表は5月15日、コマツの契約締結は6月30日で、いずれも改正案の公表より前です。両社が挙げた理由も、ENEOSはポートフォリオ再編とリスクマネジメントの一元化、コマツは受け手の事業基盤を活かしたサービスの安定と品質であり、いずれも規制には触れていません。

本稿が言いたいのは因果ではなく、構造です。規制に追い出されたと見るよりも、企業の側で代理店機能の置き場所を見直す動きが始まっているところに、制度変更が重なってきたと読むのが自然でしょう。

同じ週に2件続いたからといって、これを「潮流」と呼ぶのは早計です。一方で、今回の改正案は、企業内代理店を持つ企業グループに、その位置づけを改めて検討することを促すものではあります。その判断の実例として、二つの案件は読む価値があります。

企業内代理店の存在意義を問い直す

企業内代理店が生まれた理由は、一つではありません。グループの保険を一元管理する、従業員に団体保険などの福利厚生を届ける、そして代理店手数料をグループ内に還流させる。こうした理由が重なって、多くの企業グループが自前の代理店を持ってきました。

改正案の問題意識は、このうち最後の点にあります。手数料が実質的な保険料の割引になっているおそれ、親会社の意向に従うだけで代理店としての独立した判断が働かないおそれです。もし手数料の還流という存在理由が制度上認められにくくなるなら、残る存在意義は何か。それを測る軸として、次の六つを挙げたいと思います。

企業内代理店の存在意義を測る六つの軸
軸問い
リスクマネジメント価値グループのリスクを把握し、補償の設計・見直しを主導できているか
従業員への価値従業員向け保険で、グループ内に持つ意味のあるサービスを提供できているか
専門性業界特有のリスクや海外拠点の保険に、固有の知見を持っているか
自立性親会社から独立して、募集管理や法令遵守を自ら担えているか
ガバナンスコスト規制対応に必要な人材・内部管理態勢を維持できるか
事業としての持続可能性適正な手数料水準の中で、必要な機能と人材を維持できるか

六つ目の軸は、収益性そのものではありません。手数料収入があること自体が問題なのではありません。問われるのは、その手数料が代理店として提供する機能とコストに見合うものか、そしてその収益構造が親会社への実質的な利益還元になっていないかです。手数料の還流だけで成り立っている代理店は、制度の変化に最も弱いといえます。

選択肢は「残すか、売るか」だけではない

企業内代理店の今後は、「グループ内に残すか、手放すか」の二択で語られがちです。ですが実際には、少なくとも五つの道があります。

企業内代理店の五つの選択肢
選択肢中身問われること
自立化して内製を続ける適用除外の要件を満たす代理店へ体制を作り直す実務能力と親会社からの自立を、自ら証明できるか
事業会社系の代理店へ移管するコマツの事例のように、別グループの代理店へ事業を移す従業員や事業会社へのサービスを落とさずに承継できるか
保険の専門会社の傘下に入るENEOSの事例のように、代理店会社ごと専門ブローカーに譲るグループ固有の知見と、外部の専門性を両立できるか
共同化する複数のグループで代理店機能を共同で持つ利害の異なる親会社の間で、ガバナンスを設計できるか
機能を再編する契約管理は残し、リスクマネジメントや監査を外部と組む、などどの機能を自社に残し、どこと分担するかを決められるか

どれが正解かは、グループごとに違います。重要なのは、どの道を選ぶにしても、前節の六つの軸で自社の代理店を評価することが出発点になる点です。

移管を選んだ企業も、内製を選んだ企業も、その判断の根拠を説明できなければなりません。株主にも、従業員にも、そして監督当局にもです。

関連コラム:9月11日の監督指針改正案の全体像は「保険代理店は「自らを管理する会社」へ——9月11日監督指針改正案が示したもの」、企業代理店の存在意義を政策株式の観点から考えたシリーズは「政策株式がなくなった後、企業代理店はなぜ存在するのか」をご覧ください。

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よくある質問

企業内代理店の特定契約比率規制とは、どのような規制ですか

損害保険代理店が、自らと人的・資本的に密接な関係を持つ者(特定者)を契約者等とする保険契約(特定契約)の募集を主たる目的とすることを制限する規制です。取扱保険料に占める特定契約の割合が5割を超えると、自己契約の禁止(保険業法295条)の趣旨に照らして問題があるとされ、是正計画を付して財務局等へ報告することになります。

9月11日の改正案では、いつから何が変わる予定ですか

改正案では、特定契約比率の計算対象種目を限定している経過措置を2030年4月1日以後に開始する事業年度から撤廃し、2032年4月1日以後に開始する事業年度から、特定者の範囲を親会社が議決権の50%超を有する範囲まで広げるとしています。あわせて、手数料の適正化と態勢整備の要件を満たす代理店を、規制の適用除外とする枠組みを設けるとしています。

グループ外の代理店に移管すれば、規制の対象から外れますか

資本関係のない別グループの代理店が扱う場合、その契約は、移管先の代理店にとって「自らと人的・資本的に密接な関係を有する者との契約」には当たらないのが通常です。ただし、譲渡後も役員等の兼務や出資などの関係が残る場合は、特定者に該当する可能性があります。どの道を選ぶかは、規制上の位置づけだけでなく、本文で挙げた六つの軸に照らして判断することが大切です。

まとめ——KIBANからの提言

企業内代理店をめぐる議論は、どうしても「新しい規制に対応できるか」という形になりやすいものです。しかし、規制はきっかけにすぎません。本当に問われているのは、グループにとって保険代理店機能が何の価値を生んでいるのかです。

その答えが明確なら、内製を続ける理由も、手放す理由も、自ずと見えてきます。答えが曖昧なまま規制への対応だけを急げば、コストだけが増え、代理店の存在意義はかえって見えにくくなります。ENEOSとコマツの事例は、その問いにそれぞれの答えを出した企業グループの実例として受け止めたいと思います。

これから企業内代理店に問われるのは、「規制に対応できるか」だけではありません。なぜこの代理店を、自社グループの中に持ち続けるのか。その理由を説明できるか。おそらく、そこが出発点になります。

KIBANは保険代理店の「外部経営管理本部」として、企業内代理店の事業・組織・ガバナンスのあり方の整理を、実務経験をもとにお手伝いしています。個別の法的判断が必要な場面では、弁護士などの専門家と連携して対応します。

参照した主な情報源

  • マーシュ ジャパン「マーシュジャパン、ENEOSホールディングス株式会社からENEOS保険サービス株式会社の株式取得およびENEOSマテリアルトレーディング株式会社の保険代理店事業取得を合意」(2026年5月15日) Webページ
  • マーシュ ジャパン「マーシュ ジャパン、ENEOS保険サービス株式会社の株式取得およびENEOSマテリアルトレーディング株式会社保険代理店事業取得を完了」(PR TIMES、2026年9月30日) Webページ
  • 豊通保険パートナーズ「コマツグループの保険代理店事業を譲受、豊通保険パートナーズ」(PR TIMES、2026年10月1日) Webページ
  • コマツ「コマツコーポレートサービス(株)の保険代理店事業の譲渡について」(2026年10月1日) Webページ
  • 金融庁「「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)の公表について」(2026年9月11日) Webページ
  • 金融庁「「保険会社向けの総合的な監督指針」(令和8年9月パブリックコメント開始分)の概要」(2026年9月11日) PDF
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