トップ営業を、会社は監督できているか
——プルデンシャル生命の調査報告書から考える、
2026年10月8日、プルデンシャル生命が社外特別調査委員会の調査報告書を公表しました。本稿は、この問題を論評するものではありません。報告書が投げかけた「営業成績が高い人ほど、管理の対象から外れていないか」という問いを、保険代理店の経営に引きつけて考えます。
目次
報告書は何を原因としたのか
報告書は、営業社員・元営業社員による金銭に関わる不適切な行為の原因として、次の5点を挙げています。
- 営業社員の制度と支社の制度に構造的に内在する、金銭授受に係る不正リスク
- 営業成績を過度に重視する経営方針と企業風土
- 営業管理職や本社の営業管理部門による、営業社員の管理・監督機能の脆弱性
- 会社と持株会社による、営業組織への統制機能の不全
- グループ全体の意思決定における、会社としての主体性の希薄化
個人の資質は、このなかに入っていません。同社も公表資料で、今回の問題を「個々の営業社員の問題として捉えるのではなく、経営管理態勢やビジネスモデルに起因する構造的な問題」と位置づけています。
再発防止策も、その認識に沿ったものです。営業社員については、アフターサービスに対する報酬の比率を報酬全体の5%未満から約20%に見直します。営業管理職については、採用人数が報酬に直接連動する仕組みを廃止し、自身の保険販売を原則として認めないとしています。研修や規程の強化にとどまらず、評価と権限の設計に手を入れている点が目を引きます。
なぜ営業力が強い会社ほど管理が弱くなるのか
報告書は、営業成績の優秀な一部の営業社員について、その成績が営業管理職の報酬にも大きく影響することから「実質的に管理者と被管理者との関係が逆転し、営業管理職による厳格な指導や是正措置を困難にする」と指摘しています。営業力を強みにしてきた会社で管理が弱くなる。一見すると逆説ですが、仕組みとして考えると不思議なことではありません。
第一に、売上をつくる人に発言力が集まります。会社の収益がその人に依存するほど、周囲は意見を言いにくくなります。
第二に、管理する側の評価も売上で決まります。配下の成績優秀者を厳しく指導することが、管理者自身の評価を下げかねないのであれば、指導は行われません。指導する力がないのではなく、指導する理由が制度のなかにないのです。
第三に、顧客との関係が営業担当者個人のものになります。顧客は会社ではなく「その人」を信頼して契約しているため、会社は顧客と直接つながる経路を持たず、何が起きているかを知る手段がありません。
つまり、経営管理が機能しない原因は、管理部門の人手や能力の不足だけでは説明できません。経営管理を機能させるための動機づけと権限が、組織のなかに用意されているかどうかの問題です。
保険代理店で起きやすい3つの場面
保険会社の営業社員と、保険代理店の募集人とでは、制度も立場も異なります。ただ、報告書は同社の支社以下の営業組織について「いわば実質的な代理店組織に近い性格を有している」と述べています。営業力のある代理店ほど同じ構造を抱えやすいと私たちは考えます。代理店の現場では、次のような場面として現れます。
売上上位の募集人に、誰も意見を言えない
手数料収入の大きな割合を一人の募集人が占めている代理店では、その人の募集のやり方について、管理者はもちろん経営者でさえ口を出しにくくなります。点検や研修のルールはあっても、その人だけは「忙しいから」「実績があるから」と例外になっていきます。例外が続くと、ほかの募集人もルールを軽く見るようになります。
顧客のことを、担当者しか知らない
顧客とのやり取りの経緯、契約の背景、次に連絡する時期。こうした情報が担当者の頭や私用の手帳のなかにしかない状態では、会社は顧客に何が起きているかを把握できません。担当者が休んだり退職したりしたときに顧客対応が止まるだけでなく、苦情の芽にも気づけなくなります。
M&Aで加わった拠点に、本部の管理が届かない
M&Aで拡大した代理店グループでは、買収した代理店の元経営者やトップ営業が、その拠点の売上そのものです。統合後も以前のやり方がそのまま続き、本部は数字の報告を受けるだけになりがちです。拠点の活動を把握し、必要なときに是正できる関係をつくれるかどうかは、統合の成否を左右します。
いずれも、不正が起きているという話ではありません。何かが起きたときに、会社が気づけず、止められない状態にあるという話です。
自社を点検する5つの問い
保険業法第294条の3は、保険募集人に対し、業務の健全かつ適切な運営を確保するための措置を講じることを求めています。監督指針は、その内容のひとつとして、募集人に対する教育・管理・指導を挙げています。「あの人は数字を上げているから任せている」は、体制整備の説明にはなりません。自社について、次の点を確認してみてください。
- 売上上位の募集人に対しても、ほかの募集人と同じ基準で点検や指導が行われているか
- 担当者を通さずに、会社が顧客の声を直接聞く経路があるか
- 苦情、早期失効・解約、例外的な事務処理を、募集人別に見ているか
- 管理者や管理部門に、売上上位者の活動を止める権限が実際にあるか
- 個別の問題が起きたとき、本人への対応で終わらせず、制度や運用の見直しまで検討しているか
評価と権限を、ひとつの設計として考える
人は評価されるように動きます。新規契約だけが評価される制度のもとで、契約の維持や顧客対応の質を求めても、掛け声で終わります。管理者に指導を求めるのであれば、指導したことが管理者の評価につながり、指導に従わない場合に止める権限があることが前提になります。
代理店は規模も体制もさまざまですから、保険会社と同じ施策を取り入れる必要はありません。ただ、「誰が、何によって評価され、誰にそれを止める権限があるのか」という問いは、規模にかかわらず共通です。人事制度とコンプライアンスは別々のテーマではなく、ひとつの設計として考える必要があります。
関連コラム:経営者自身がトップ営業である場合の論点は「保険代理店最大のリスクは、保険会社でも制度改正でもなく「社長」かもしれない」を、顧客や社員の声を拾う仕組みについては「内部通報制度は「置いてある」だけで機能するのか」をご覧ください。
「売上上位の募集人ほど、
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よくある質問
募集人が数名の小さな代理店にも関係がありますか
関係があります。小規模な代理店では、経営者自身が売上の大半を担うトップ営業であることが少なくありません。その場合、経営者の募集活動を点検する人が社内にいないという形で、同じ構造が現れます。
トップ営業への管理を強めると、辞めてしまいませんか
その懸念こそが、管理が及ばなくなる出発点です。特定の人が辞めると経営が成り立たない状態は、それ自体が経営上のリスクです。管理を強めるかどうかの前に、顧客情報の共有や担当の複数化など、特定の個人への依存を下げる取り組みから始めることが現実的です。
何から確認すればよいですか
まず、苦情、早期失効・解約、例外的な事務処理といった情報を募集人別に並べてみることをおすすめします。すでに社内にある記録で確認でき、新しい仕組みをつくる必要がありません。そのうえで、売上上位者だけが点検の対象から外れていないかを見てください。
まとめ——KIBANからの提言
プルデンシャル生命の調査報告書に書かれているのは、営業力を強みにしてきた組織が、その強みゆえに管理を効かせられなくなっていく過程です。営業力のある代理店ほど、自社の話として読む価値があります。
問いはひとつです。営業成績が高い人ほど、経営管理の対象から外れていないか。外れているとすれば、それは管理部門の努力不足ではなく、評価と権限の設計の問題です。経営者が決めなければ変わりません。
KIBANは、保険代理店の「外部経営管理本部」として、経営管理の仕組みづくりを経営者とともに考えています。賃金・評価制度の具体的な設計や労務上の取扱いについては、社会保険労務士などの専門家と連携して対応します。
参照した主な情報源
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