KIBAN株式会社|保険代理店の外部経営管理本部
業界動向

手数料ポイントの「品質」が8〜9割になる日

——保険代理店の収入は、何で決まるようになるのか

三井住友海上の海山裕社長が、代理店手数料の評価に占める業務品質関連項目の割合を、合併後の2027年度に約65%、2029年度には約80〜90%まで引き上げる方針を明らかにしました。手数料率を決める物差しの大半が、規模や増収から業務品質へ移ることになります。保険会社は代理店の何を見るようになるのか。代理店は、何を「説明できる状態」にしておく必要があるのか。公表資料と報道をもとに、代理店経営の側から整理します。

「27年度に約65%、29年度に約80〜90%」が意味するもの

ダイヤモンド・オンラインが2026年10月22日に掲載したインタビューで、海山社長は代理店手数料体系の見直しについて「規模や増収率を重視する仕組みから、お客さまに提供するサービスの品質を重視する仕組みへと転換する」と述べ、今年度から本格運用が始まった業界共通の代理店業務品質評価制度を手数料体系に反映させる方針を示しました。あいおいニッセイ同和損保との合併後の2027年度には手数料評価に占める業務品質関連項目の割合を約65%とし、2029年度には約80〜90%まで広げるといいます。あわせて、業界共通の評価制度の基準に両社独自の評価項目を組み合わせた「品質・体制評価制度」を新設したことも明らかにしています。

両社は2027年4月1日に合併して「三井住友海上あいおい損害保険」となる予定で、MS&ADホールディングスが2026年5月20日に公表した合併方針には、品質・体制評価制度を基に2029年度末までに新たな販売モデルへの移行を完了し、代理店手数料の適正化を進めることが記されています。今回のインタビューは、この方針を手数料の数字に落としたものと読めます。

約80〜90%という数字は、手数料率を決める評価のなかで業務品質関連項目が占める割合です。従来も各社の体系には品質項目がありましたが、規模・増収に比べると比重は小さいものでした。評価の大半が品質項目で構成されるようになれば、挙績が同じでも品質評価の差によって手数料率に差がつきます。海山社長は、保険会社と代理店の関係の見直しを「入り口」、比較推奨販売の適正化を「出口」と位置づけています。手数料率の決まり方を変えることで、代理店の行動を変えようとしているわけです。

手数料ポイントは、主に「規模」を見てきた

損保の代理店手数料ポイント制度は、2000年前後に大手各社が導入して以来、規模・増収・専属度といった項目を主な軸として組まれてきました。金融庁は2017年6月の損保協会との意見交換会で、一部の代理店から「評価が代理店の規模に偏り過ぎており、顧客本位の業務運営を適切に評価していないのではないか」との声があるとして、各社のポイント制度が顧客本位の取組みや業務品質向上をどう評価しているか実態把握を行っていることを明らかにしています。この問題意識が、2024年の有識者会議を経て今回の改定につながっています。

大阪損害保険代理業協会が2025年3月にまとめた2026年度の大手4社の手数料体系の分析でも、規模・増収のウエイトを下げて品質の基準を上げていること、東京海上日動がシェアポイントを廃止したこと、大手の一部が2029年度に挙績50%・品質その他50%の配分を予定していることが示されています。三井住友海上の約80〜90%は、この流れの先端にある数字です。海山社長自身も、保険会社ごとの手数料ポイントの差は今後縮小していくとの見方を示しています。

各社の時期と水準に差はあっても、方向は同じです。そして2026年6月施行の改正保険業法と、2028年3月施行の比較推奨販売の見直し(ハ方式の廃止)が、品質評価の中身を規定していきます。どの保険会社と付き合うかで避けられる転換ではありません。

品質ポイントは、何を見るのか——そして、品質を定義するのは誰か

では、評価の約80〜90%を占める業務品質は何で測られるのでしょうか。海山社長は、業界共通の代理店業務品質評価制度を手数料体系に反映させると明言しています。評価制度は、保険会社と代理店の継続的な対話を通じて、代理店の規模・業務特性を踏まえながら代理店自らが主体的に業務品質を高めることを目的としたもので、経営管理態勢、法令等遵守態勢、顧客情報の管理、苦情・事故対応、人材育成、事業継続といった「会社としての運営」が対象です。品質ポイントは、募集人一人ひとりの対応品質の積み上げというより、「代理店という会社が、自らを管理できているか」を見る指標になります。9月11日の監督指針改正案が示した「自らを管理する会社」への要請と、同じ方向を向いています。

インタビューでは、自社で募集業務を完結する「発展型代理店」と、兼業代理店を想定し募集業務の一部を保険会社や品質の高い代理店と分業する「分業型代理店」の二つのモデルが示され、2027年度から移行を順次進めるとしています。委託解除については、重大な事由がある場合を除き、対話と改善支援を尽くしたうえで双方の合意による解約を基本とする順番が示されました。10月13日に金融庁と国土交通省が損保協会に出した要請も、規模・業務特性を踏まえた丁寧な対話を求めるものでした。

ここで、一つ考えておきたいことがあります。業務品質の比重が高まること自体は望ましい方向ですが、何を品質と定義し、どう評価するかを保険会社が決めるのであれば、代理店は保険会社の評価基準に一層依存することにもなりかねません。評価表の項目を満たすことが目的になれば、評価の軸が規模から保険会社の基準に変わっただけで、自らを管理する会社になったとはいえません。代理店自身が経営理念や顧客本位の方針に基づいて自社の業務品質を定義し、管理し、説明できること。保険会社との対話は、その定義を持ち寄る場であるはずです。

関連コラム:評価制度をめぐる10月13日の要請については「「対話」は誰のためにあるのか」を、「自らを管理する会社」への転換については「保険代理店は「自らを管理する会社」へ」をご覧ください。

「品質で評価される」代理店に必要な三つの状態

評価の大半が業務品質で構成される体系のもとで、代理店が整えておくべきことは、規程や帳票の数ではありません。KIBANは、次の三つの「状態」が揃っているかどうかが分かれ目になると考えています。

第一に、自社の業務品質を自社の言葉で説明できる状態です。評価制度や自己点検チェックシートは、保険会社が確認するための道具であると同時に、代理店が自社の現状を把握するための道具でもあります。チェック項目に丸を付けるだけでなく、「なぜそうしているか」「どこが弱いか」「来期どう変えるか」を経営者が語れるかどうかが、対話の質を決めます。

第二に、点検と改善が回っている状態です。品質評価は毎年度の対話で確認されます。年に一度チェックシートを埋めて提出するだけの運用では、翌年に同じ指摘を受けます。自己点検の結果から課題を特定し、改善策を決め、実行の記録を残し、次の点検で確認する。この循環が、すでにある対応履歴や会議記録を証跡として回っているかどうかが問われます。

第三に、自己評価の妥当性を客観的に検証できる状態です。自己点検は自分で自分を採点する仕組みですから、甘くもなり、形式的にもなります。保険会社の点検は評価と一体ですから、相談しにくい面もあります。自己評価と実態のずれを、評価と切り離された視点で確かめておくことが要ります。内部監査の担当を募集部門から分ける、経営者自身が現場の記録を定期的に読む、同業の経営者と相互に点検し合うなど、方法はいくつもあります。第三者による外部監査もその一つで、自社に監査の人手や経験がない場合に客観性を確保する現実的な手段です。

自社の業務品質を、自社の言葉で説明できる状態になっていますか

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よくある質問

品質の割合が8〜9割になるのは、三井住友海上だけですか

明言されているのは三井住友海上(合併後の三井住友海上あいおい損害保険)の方針ですが、2026年度の大手4社の体系はいずれも規模・増収のウエイトを下げて品質の基準を上げています。水準と時期に差はあっても、方向は業界全体で共通しています。

小規模な代理店でも品質評価で不利になりますか

評価制度は、代理店の規模・業務特性を踏まえた対話を前提としています。10月13日の要請も、規模に見合わない態勢整備を一律に求めることに対して改善を求めるものでした。海山社長も、全代理店に同じ型を求めるのではなく、強みや経営方針、マーケットを尊重すると述べています。問われるのは規模そのものより、自社の規模に見合った管理ができているか、それを説明できるかです。

まず何から始めればよいですか

自己点検チェックシートを提出物としてではなく、自社の現状把握の道具として一度きちんと使ってみることをお勧めします。弱い項目がどこか、なぜ弱いか、来期どう変えるかを経営者が言葉にできれば、保険会社との対話はそこから始められます。

まとめ——KIBANからの提言

手数料評価の業務品質比率が2029年度に約80〜90%になるという方針は、手数料率を決める物差しの中心が「どれだけ売ったか」から「どう売り、どう管理しているか」へ移ることを告げています。保険会社の制度変更に見えて、実際には代理店の経営の問題です。品質は現場の努力目標にとどまらず、経営者が把握し、対話の場で説明する経営指標になります。

同時に、品質を定義するのは保険会社だけではありません。自社の経営理念と顧客本位の方針に照らして、自社にとっての業務品質とは何かを決め、管理し、説明する。自己点検を自社の現状把握に使い、点検と改善の循環を既存の記録で回し、自己評価の妥当性を客観的に検証しておく。この三つが揃っていれば、評価の比率がいくらになっても、対話の場で困ることはないはずです。

KIBANは、保険代理店の外部経営管理本部として、自己点検の活用と自己評価の客観的な検証を通じて、経営者が自社の業務品質を定義し説明できる状態をつくるお手伝いをしています。個別の法的判断や労務・税務の助言が必要な場面では、弁護士・社会保険労務士・税理士など専門家におつなぎします。

参照した主な情報源

  • ダイヤモンド・オンライン「三井住友海上社長が明言「改革を後戻りさせない」、比較推奨販売「ハ方式」廃止後の指針は?代理店手数料ポイントは品質の割合を「29年度に8~9割に引き上げ」」(2026年10月22日、有料会員限定) 記事ページ
  • ダイヤモンド・オンライン「あいおいニッセイ同和損保社長に聞く、代理店との新たな関係性と代理店手数料ポイント制度「品質評価の比重は5割超へ」」 記事ページ
  • MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス「三井住友海上火災保険株式会社とあいおいニッセイ同和損害保険株式会社の合併について」(2026年5月20日) PDF
  • 一般社団法人大阪損害保険代理業協会「2026年度代理店手数料体系(大手4社・専業代理店)」(2025年3月6日) PDF
  • 金融庁「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」(2017年6月、日本損害保険協会) PDF
  • 金融庁・国土交通省「損害保険業界の信頼回復に向けた取組の適切な運用について」(2026年10月13日) 金融庁ウェブサイト
  • 金融庁「2026事務年度 金融行政方針 主なポイント」(2026年9月) PDF
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品質で評価される時代に、自社の品質を自社の言葉で。

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