KIBAN株式会社|保険代理店の外部経営管理本部
労務・社会保険

労務管理は「ある」だけでは足りない

——保険代理店は「説明できる労務管理」をどう構築するか

厚生労働省が9月15日に公表した令和7年度の監督指導結果では、長時間労働が疑われる事業場の78.5%で労働基準関係法令違反が確認されました。金融庁の監督指針改正案、損保協会の代理店業務品質評価制度と並べて読むと、労働行政もまた「制度があるか」ではなく「機能しているか」を問い始めていることが見えてきます。直行直帰や事故対応が日常である保険代理店が、聞かれたときに実態を数字と記録で説明できる労務管理をどう持つか。今回の発表を手がかりに整理します。

8割近くで法令違反——令和7年度の監督指導結果

厚生労働省は9月15日、「長時間労働が疑われる事業場に対する令和7年度の監督指導結果」を公表しました。対象となった29,150事業場のうち22,882事業場、実に78.5%で労働基準関係法令違反が確認されています。

内訳を見ると、違法な時間外労働があったものが11,228事業場(38.5%)、賃金不払残業が1,901事業場(6.5%)、過重労働による健康障害防止措置が未実施のものが5,919事業場(20.3%)です。違法な時間外労働のうち、月80時間を超えるものが4,991事業場、月100時間を超えるものが2,842事業場、月200時間を超えるものも111事業場ありました。

前年度(令和6年度)の違法な時間外労働の率は42.4%でしたので、率としては38.5%へと改善しています。しかし対象事業場数は年によって変動しますから、この改善を額面通り「状況が良くなっている」と読むのは早計でしょう。少なくとも、長時間労働が疑われる事業場を選んで監督に入った結果としては、依然として8割近くで何らかの法令違反が見つかっている、という事実は動きません。

これだけなら、毎年恒例の行政発表の一つに過ぎません。ですが、この数字を今の保険業界の文脈に置くと、見え方が変わってきます。

「制度があるか」から「機能しているか」への転換は、労働行政でも起きている

ここ数週間、保険代理店を巡る行政の関心は、はっきりと一つの方向を向いています。金融庁が9月11日に公表した監督指針改正案は、代理店に対して「体制を整備しているか」ではなく「その体制が実際に機能しているか」を問う内容に踏み込んでいます。損保協会の代理店業務品質評価制度でも、自己点検チェックの結果やモニタリング調査、通報等を踏まえ、リスクベースで対象代理店を抽出してフォローアップ点検を行う仕組みが動き始めています。

労働行政も、実質的には同じ問いを立てています。36協定を結んでいるか、勤怠システムを導入しているか——そうした「制度の有無」は、もはや監督のスタート地点に過ぎません。今回の結果が示しているのは、制度を持っている事業場の中にも、労働時間の把握が不適正として指導を受けたもの(4,045事業場、13.9%)や、健康障害防止措置が十分に実施されていないものが、無視できない規模で存在するという現実です。

「制度があるか」だけでなく、「実際にどう運用されているか」が問われるという点では、金融行政と労働行政に共通するものがあります。代理店経営者にとって、これは二つの別々の宿題ではなく、一つの宿題の二つの現れとして捉えた方が実態に近いでしょう。

関連コラム:監督指針改正案の中身は「保険代理店は「自らを管理する会社」へ——9月11日監督指針改正案が示したもの」を、自己点検チェックの仕組みは「保険代理店の自己点検とは? 損保協会チェックリストの概要と対応のポイント」をご覧ください。

保険代理店の労務管理が、特にズレやすい構造的な理由

保険代理店の現場には、労働時間の実態と勤怠記録がズレやすい構造がいくつも重なっています。営業社員の直行直帰が常態化していること。管理監督者性の判断が曖昧なまま、役職者を残業代の対象外として扱っているケースがあること。顧客対応が自宅からのメールや電話で行われ、記録に残らないこと。土日の顧客対応、事故発生時の時間外対応が、通常の勤怠管理の枠外で発生しやすいこと。

これらは、代理店の仕事の性質そのものに根ざしています。だからこそ「うちは大丈夫」という感覚と、実際の労働時間や勤務実態との間に、ギャップが生まれやすいのです。

「制度はあるが、実態はよくわからない」

そう感じた段階で構いません。勤怠記録・36協定・時間外の実態をどこから棚卸しするか、KIBANの30分無料相談で現状の整理からご一緒します。

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「説明できる労務管理」とは、具体的に何を指すか

「36協定があります」「勤怠システムを入れています」は、もう十分な答えになりません。求められているのは、聞かれたときに、実態を数字と記録で説明できる状態です。少なくとも、次の観点は自社の状態を一度棚卸ししておく価値があります。

  • 勤怠記録の信頼性(自己申告と実態の乖離はないか)
  • 36協定の締結内容と、実際の運用実態の一致
  • 時間外・休日労働の実態把握
  • 管理監督者性の実質判断(役職名だけで除外していないか)
  • 固定残業代制度の運用が適法な範囲に収まっているか
  • 賃金不払残業の有無
  • 勤務間インターバルの状況
  • 長時間労働者への健康確保措置(面接指導等)が実際に機能しているか

これらを一つずつ確認していくと、「制度はあるが、運用の実態を十分に把握できていない」という課題が見えてくる代理店もあるでしょう。これは経営者の怠慢というより、管理部門の人員が薄い中小代理店では構造的に起きやすいことです。

労務管理は、社長を守るためのものでもある

労務管理の話は、ともすると「コンプライアンス対応のコスト」としてだけ語られがちです。しかし、行政の監督指導で法令違反が指摘されたとき、最終的にその責任を背負うのは経営者自身であることが多いのです。説明できる労務管理を持つことは、従業員を守ると同時に、経営者自身の経営判断を守ることでもあります。

金融庁も損保協会も労働行政も、それぞれ別の入口から、代理店に「管理能力の実質」を問い始めています。募集管理、内部監査、情報管理、労務管理——これらを個別の規制対応として追いかけ続けるのではなく、一つの会社として、自らを管理できる経営基盤を持つこと。これからの保険代理店に求められるのは、まさにそこではないでしょうか。

よくある質問

保険代理店のような小規模な事業場にも、労働基準監督署の監督指導は入るのですか

業種や規模を問わず対象になります。今回の監督指導は、各種情報から時間外・休日労働が月80時間を超えていると考えられる事業場や、過労死等に係る労災請求が行われた事業場などを対象に行われたものです。令和7年度の実施事業場を規模別に見ると、労働者1〜9人の事業場が6,823事業場(23.4%)、10〜29人が12,234事業場(42.0%)と、30人未満の事業場が6割超を占めています。「小さいから来ない」という前提は成り立ちません。

勤怠システムを導入していれば、労働時間の把握は適正といえますか

システムの有無ではなく、記録が実態と合っているかが問われます。厚生労働省のガイドラインは、始業・終業時刻を使用者の現認またはタイムカード・ICカード・PCの使用時間記録などの客観的な記録で確認することを原則とし、自己申告制をとる場合には、申告された時間と入退場記録やPCの使用時間との間に著しい乖離があれば実態調査を行い、必要な補正をすることなどを求めています。今回の公表資料にも、勤怠システムに自動反映された入退室時間を後から修正できる仕様だったために実態と乖離していた事例が紹介されています。

直行直帰の営業社員や、自宅からの顧客対応の時間は、どう扱えばよいのでしょうか

ガイドラインでは、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、明示または黙示の指示により業務に従事する時間は労働時間に当たるとされています。就業規則や勤務形態上の位置づけだけで決まるものではなく、実態に即して個別に判断されるものです。そのため、まずは直行直帰や自宅対応の実態がどれだけあるかを把握し、記録の方法を決めておくことが出発点になります。自社の制度設計として何が適法かは、社会保険労務士など専門家の判断を仰いでください。

まとめ——KIBANからの提言

今回の監督指導結果は、長時間労働が疑われる事業場に絞った数字であり、すべての事業場の姿ではありません。それでも、制度を持っている事業場の中にさえ、労働時間の把握や健康確保措置が実態として機能していないものが相当数あったという事実は、「うちは36協定も勤怠システムもある」という安心が、それだけでは根拠にならないことを示しています。

保険代理店にとって大事なのは、労務管理を金融行政の宿題とは別の宿題として扱わないことです。募集管理も自己点検も労務管理も、問われているのは「体制が実際に機能しているか」という同じ問いであり、それに答えられる会社であることが、保険会社にも行政にも従業員にも説明のつく経営基盤になります。まずは、この記事で挙げた観点で自社の現状を棚卸しし、実態と記録の乖離がどこにあるかを把握するところから始めてみてください。

KIBANは外部経営管理本部として、代理店の経営者と一緒に労務管理の現状を整理し、優先順位をつけるところを担います。就業規則や36協定の内容、管理監督者性や固定残業代の適法性といった個別の法的判断は社会保険労務士など専門家の領域ですので、必要に応じて橋渡しします。

参照した主な情報源

  • 厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和7年度の監督指導結果を公表します」(2026年9月15日) 厚労省サイト / 報道発表資料PDF
  • 厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します」(2025年7月30日) 報道発表資料PDF
  • 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日策定) ガイドラインPDF
  • 金融庁「『保険会社向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)の公表について」(2026年9月11日) 金融庁サイト
  • 日本損害保険協会「代理店業務品質評価を行う業界共通の枠組み」(フォローアップ点検の手引き(2026年度版)ほか) 損保協会サイト
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