「比較推奨は代理店淘汰の導火線」なのか
——淘汰の分かれ目は「規模」ではなく「経営管理機能」にある
2026年9月8日付の日本経済新聞が、2028年3月に始まる比較推奨の新ルールを「代理店淘汰の導火線」と表現しました。専門的な制度改正の話を、代理店の経営問題として捉えた記事です。本コラムでは、この記事を手がかりに、比較推奨で本当に問われているのは代理店の「規模」なのか、それとも「経営管理機能」なのかを考えます。
目次
問われているのは規模ではなく経営管理機能
9月8日付の日本経済新聞が、「比較推奨」を「代理店淘汰の導火線」として取り上げました。専門的な制度改正の話を、代理店の経営問題として捉えた記事です。一般の経営者にも分かる言葉に翻訳した意味は大きいと思います。
金融庁自身も、今回の内閣府令改正について、多くの乗合代理店で比較推奨販売の適正化に向けた業務の見直しが検討・実施されると見込んでおり、2028年3月1日の施行日を待つことなく、可能な限り速やかに体制整備を行うことが望ましいとしています。日経の問題提起は、見出しこそ強いですが、方向としては金融庁の認識と整合しています。長い準備期間が置かれたこと自体、金融庁が「乗合代理店における実務上の体制整備等に要する時間に配慮し、相応の適用期間を設ける」とした結果であり、それだけ現場の負荷が大きいと見ているということでもあります。
日経の記事の方向は正しいと思います。ただ、淘汰の軸を「規模」に置いた点については、もう一段掘り下げて考えてみたいのです。
「システムを入れられるか」ではない
記事は、比較推奨対応→システム投資→コスト増→小規模代理店には重荷→再編・売却、というストーリーで書かれています。分かりやすい構図であり、間違ってはいません。
ただ、今回問われているのは、単に「比較推奨システムを導入できるかどうか」ではないはずです。
- 誰が推奨方針を決めるのか
- 誰が商品選定の妥当性を検証するのか
- 誰が募集人教育を設計するのか
- 誰が証跡をモニタリングするのか
- 問題が起きたとき、誰が改善を決めるのか
これらはシステムが解決してくれる問題ではありません。金融庁が保険業法294条の3に基づく体制整備義務を明示的に求めているのも、システムの有無ではなく、この意思決定と検証のプロセスを代理店自身が持てているかどうかを問うているからではないでしょうか。
つまり、比較推奨は募集管理の問題に見えて、実態は経営管理機能の問題です。だとすれば、淘汰されるのは「小さい代理店」ではなく、「必要な経営管理機能を持てない代理店」ではないでしょうか。これは、規模の大小とは似て非なる話です。
関連コラム:比較推奨改正の位置づけは「「ハ方式廃止」で本当に変わるものは何か——比較推奨販売改正は、代理店の営業ルール改革ではなく経営管理改革である」、体制整備義務の中身は「保険代理店の体制整備義務とは——保険業法294条の3をわかりやすく」をご覧ください。
経営管理機能の「再配置」が始まる
これまで、多くの代理店にとって「販売する商品ラインナップを決める→教材を作る→募集人を教育する→点検する→改善指導する」というサイクルは、かなりの部分を保険会社側が担ってきました。
しかし、比較推奨を本当に顧客本位で実行しようとすれば、代理店自身が比較推奨方針を設計し、その妥当性を検証し、募集人に実装し、モニタリングして改善する必要が出てきます。
制度改正をきっかけに、これまで保険会社側が担ってきた機能の一部が、代理店自身が担うべき経営管理機能として再配置されていきます。「保険会社の販売チャネルとしての代理店」から「自ら経営管理する独立した事業体としての代理店」への移行は、その一つの現れと見ることができます。
「自前で持つ」以外の選択肢を持てるかどうか
日経の記事にある「小規模代理店はシステム費用を賄えず淘汰される」という構図は、正しい面もありますが、やや単純化しすぎているようにも思います。
今後の分かれ目は、規模の経済だけではなく、経営管理機能を「自前で持つ」以外の選択肢を持てるかどうかになるのではないでしょうか。50人の代理店が、大手代理店と同じコンプライアンス部門、経営企画、人事、内部監査、システム企画をすべて自前で持つ必要はありません。
- システムはSaaSで
- 経営管理は外部化して
- 監査は第三者化する
というモデルが、一つの現実的な選択肢になります。ただし、ここで外に出せるのは「機能」であって、体制整備義務そのものではありません。方針を決めるのも、その結果に責任を負うのも、あくまで代理店自身です。
9月1日に発表されたアイリックコーポレーションとニッセイ情報テクノロジーの協業も、「比較推奨のフロント業務+基幹システム」を組み合わせて代理店に提案していく動きでした。今回の日経記事は、そのシステム投資についていけない代理店の再編まで描いています。
しかし、システムを導入すれば経営管理機能まで備わるわけではありません。むしろ今後問われるのは、導入したシステムを使って、誰が方針を決め、検証し、改善していくのかということでしょう。
関連コラム:アイリックとニッセイITの協業が代理店監査に与える影響は「これからの代理店監査は、書類だけを見ない——比較推奨システムと基幹システムの協業から考える」をご覧ください。
「売るか、自前で持つか」の前に、
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「うちを買ってくれませんか」の先にある選択肢
記事中の「うちを買ってくれませんか」という一文は象徴的です。しかし、これを「代理店淘汰」の一言だけで片づけてしまうのはもったいないと思います。
本当に問われているのは、「売却するか、自前で経営管理機能を持つか」の二択ではないはずです。
経営管理機能を外部から調達して、独立した代理店として残る。
それも、これからの代理店経営における一つの選択肢になるはずです。
比較推奨という制度改正は、代理店にとって確かに重いものです。しかし、それによって淘汰される代理店と残る代理店が、単純に「大きいか、小さいか」で決まるとは思いません。
問われるのは、自ら方針を決め、それを実行し、検証し、改善していく経営管理機能を持てるかどうかです。
そう考えると、2028年3月に始まるのは、新しい比較推奨ルールだけではありません。
保険代理店が「自ら経営する会社」になれるかどうか。その転換も、すでに始まっています。
よくある質問
比較推奨の新ルールはいつから適用されますか。
改正後の内閣府令の施行日および監督指針の適用日は2028年3月1日です。ただし金融庁は、施行日を待つことなく、可能な限り速やかに体制整備を行うことが望ましいとしています。
今回の改正で、具体的に何が変わるのですか。
乗合代理店が特定の商品を推奨する際の類型のうち、代理店独自の経営方針等を理由とする方式(いわゆるハ方式)が廃止され、顧客の意向に沿って客観的な基準・理由に基づき推奨する方式に整理されます。推奨理由の説明と記録は引き続き必要です。
生保1社・損保1社しか取り扱っていない代理店も対象ですか。
金融庁のパブリックコメント回答では、生命保険・損害保険の別を問わず、二以上の所属保険会社等を有する保険募集人は乗合代理店に当たるとされています。取扱いが1社ずつでも対象になり得ますので、自社の該当性は所属保険会社にご確認ください。
小規模な代理店も、コンプライアンス部門や内部監査を自前で持たなければいけませんか。
法令が求めているのは、部門の設置そのものではなく、体制整備義務に基づいて比較推奨販売が適切に行われる仕組みを持つことです。機能を外部から調達しても、方針の決定と責任は代理店自身に残ります。
システムを導入すれば対応は済みますか。
システムは証跡管理や比較表作成を支える手段です。推奨方針の策定、妥当性の検証、募集人教育、モニタリング、改善は、代理店自身の判断が必要な部分として残ります。
まとめ——KIBANからの提言
2026年9月8日付の日経記事は、比較推奨を「代理店淘汰の導火線」と位置づけました。方向は金融庁の認識とも整合しています。ただし、問われているのはシステム投資の可否ではなく、方針を決め、検証し、改善する経営管理機能を代理店自身が持てるかどうかです。淘汰の分かれ目は規模ではなく、その機能を「自前で持つ」以外の選択肢を持てるかどうかにあります。
「売却か、自前か」の二択ではありません。経営管理機能を外部から調達し、独立した代理店として残る道があります。施行までの約1年半は、システムを選ぶための期間ではなく、誰が方針を決め、検証し、改善するのかを自社で決めるための期間です。
KIBANは代理店の外部経営管理本部として、推奨方針の設計と妥当性の検証、募集人教育、証跡のモニタリング、改善の仕組みづくりを伴走します。比較推奨販売に関する個別の法令解釈や自社への適用の判断は、所属保険会社および弁護士等の専門家の領域です。
参照した主な情報源
※本記事は、日本経済新聞2026年9月8日付記事および金融庁「令和7年保険業法改正に係る内閣府令等及び『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」(2026年8月28日公表)に基づく一般的な解説です。日経記事の引用は見出しおよびごく一部の表現にとどめています。比較推奨販売に関する個別の法令解釈や自社への適用の判断は、所属保険会社および弁護士等の専門家にご確認ください。
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