KIBAN株式会社|保険代理店の外部経営管理本部
経営管理 専門家監修・特別編

募集人が持ってくる顧客情報は、誰のものか

——採用・退職・出向で動く情報を、会社は管理できているか

SUPERVISED BY
監修:足立格 弁護士
監修:足立 格 弁護士
紀希綜合法律事務所

保険業法をはじめとする金融規制を専門とする弁護士による監修のもと、法的整理の記載を確認しています。監修者プロフィール

2026年10月9日、金融庁はプルデンシャル生命、ジブラルタ生命、プルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパンに行政処分を行いました。処分理由には金銭に関わる不祥事に加えて、顧客情報の扱いについての指摘が複数含まれています。

本稿は、この処分を論評するものではありません。指摘に共通する「人が動くとき、顧客情報も一緒に動く」という問題を、保険代理店の経営に引きつけて考えます。中途採用、独立・移籍、出向、M&A。代理店経営では、人の移動は日常の出来事だからです。

金融庁が指摘した、3つの情報の流れ

処分理由を顧客情報の観点で読むと、情報が会社の境界を越える経路が3つ挙げられています。

処分理由に挙げられた、顧客情報の3つの経路
経路指摘の要旨対象
入ってくる(採用時)採用候補者の人脈を把握する採用ツールに、前職などで得た個人情報の不正な持込み・使用を防ぐ管理態勢がなく、不正な持込み・使用が行われている蓋然性が高いプルデンシャル生命
出ていく(退職時)退職した営業社員による顧客情報の不正な持出しがあり、類似案件の調査も対象・範囲や実効性が十分に確保されていないプルデンシャル生命、ジブラルタ生命
出向を通じて委託先代理店への出向者を通じた不適切な情報取得・持出しプルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル生命(持株会社への処分理由)

なお、ジブラルタ生命について金融庁は、担当する顧客を「会社の顧客」ではなく「自分の顧客」と考える意識が営業社員の間に広がっていたこと、そして個人の人脈を最大限に活かすことを期待した採用が、退職時に顧客情報を持ち出す動機を生みやすい土壌になっていたことを指摘しています。

3つの経路に共通するのは、採用・退職・出向という人事の出来事のたびに、顧客情報が動いているという点です。一般に、人事と情報管理が別々の部門・担当者に分かれていれば、その隙間が管理上の弱点になり得ます。

保険代理店で起きる3つの場面

保険会社の営業職員と代理店の募集人とでは、制度も立場も異なります。それでも、人の移動とともに情報が動く構造は、代理店のほうがむしろ身近です。

採用:「お客様を連れてきてくれる人」を採っていないか

中途採用の面接で「いまお客様は何件お持ちですか」と尋ねることは、珍しくありません。即戦力を求める気持ちは自然です。ただ、その問いが「前職の顧客名簿を持ってきてほしい」という期待として伝われば、持込みを促していることになります。

入社時に持参した名簿や表計算ファイル、私物スマートフォンの連絡先が、どこから来たものか。それを確認しないまま営業に使えば、問題が起きたとき、受け入れた会社も当事者になります。

ここには、代理店経営の難しさがあります。中途採用する募集人が、どれだけの人的ネットワークや顧客との関係性を有しているかは、採用判断や処遇を決めるうえで重要な関心事になり得ます。それを評価すること自体は問題ではありません。しかし、採用する側が前職の顧客情報の持込みまで期待するのであれば、自社の募集人が退職する際にも同じことが起こり得ます。

他社から持ち込まれる顧客情報には寛容で、自社から持ち出される顧客情報には厳しい。そうした非対称な管理は長続きしません。採用時に何を期待し、どこまでを許容するのか。その経営判断と顧客情報管理の方針は、一貫している必要があります。

退職:辞めた日に、顧客データへの扉は閉まっているか

独立や他代理店への移籍は、代理店業界では日常の出来事です。顧客が自分の意思で担当者についていくこと自体は、顧客の選択です。問題になるのは、会社が管理する名簿やデータをもとに勧誘が行われる場合です。

最終出社日や業務権限の終了時点に合わせて、顧客管理システムのアカウントが止まっているか。私物端末やメッセージアプリを顧客対応に使うルールが在籍中から社内規程等で決まっており、退職時にやり取りの残存を確認できるか。担当顧客への引継ぎを、会社として行っているか。ここが曖昧だと、持出しがあっても気づけず、気づいても説明できません。

出向・M&A:外から来た人、外から来た情報を管理できているか

保険会社や提携先からの出向者を受け入れている代理店では、出向者が自社の顧客情報にどこまでアクセスできるかが問われます。乗合代理店であれば、出向元以外の保険会社の契約情報も含まれます。

出向者に付与するアクセス権限だけでなく、出向元の保険会社との間で、どのような情報の共有が認められるのかを明確にしておく必要があります。

M&Aで代理店を引き継ぐ場合も同じです。M&Aの種類はどのようなものか、引き継いだ顧客情報がどの範囲で、どのような経緯で取得されたものか。統合後に誰がアクセスできるのか。買収した拠点の元経営者やトップ営業が後に離脱すれば、今度は出ていく側の問題になります。

「誰のものか」ではなく「誰が管理責任を負うか」

顧客情報は、募集人個人が自由に持ち運べるものではありません。他方、会社が保有しているからといって、自由に利用・移転できるものでもありません。顧客本人の権利利益を保護しながら、会社が(募集人も含めて)適切に取得・管理し、利用する責任を負う情報です。法律も、所有権の帰属ではなく、取得・管理・利用の責任という側から、この問題を扱っています。

個人情報保護法:入口と出口の両方に責任がある

入口:偽りその他不正の手段で個人情報を取得することは禁じられています(第20条第1項)。たとえば、前職から不正に持ち出された名簿だと分かっていて受け入れ、使えば、受け入れた側が個人情報保護法に違反しているとされる可能性があります。

出口:会社は個人データの安全管理措置を講じ、従業者を監督する義務を負います(第23条、第24条)。退職者による持出しは、本人の問題であると同時に、会社の安全管理の問題でもあります。

不正競争防止法:守られるのは「守っている情報」だけ

顧客名簿は、営業秘密として保護される場合があります。その場合、不正に持ち出した本人だけでなく、その事情を知って(又は重過失で知らないで)取得・使用した転職先も責任を問われ得ます。

ただし、営業秘密として保護されるには、秘密管理性、有用性、非公知性という3つの要件を満たす必要があります。なかでも代理店が日常的に確認すべきなのは、秘密管理性、即ち、顧客情報を秘密として管理する意思が従業員に明確に伝わり、実際に管理されているかという点です。管理の実態がなければ、持ち出されたときに保護を受けられない可能性があります。持ち出された後に争うより、持ち出されないように管理しているかが先に問われるということです。

保険業法:募集人を管理する体制の一部として

保険業法第294条の3は、保険募集人に業務の健全かつ適切な運営を確保するための措置を求めています。監督指針は、顧客情報の適切な管理をその内容のひとつとしています。採用時・退職時の情報管理は、代理店の体制整備そのものです。

自社を点検する6つの問い

採用時

  • 面接や採用書類で、前職の顧客情報を違法又は不正に持ち込まないよう明確に伝え、誓約を取っているか
  • 入社時に持参された名簿やデータの出所を確認し、違法又は不正の疑いがある場合には、使わせない手順があるか

在籍中

  • 顧客情報が会社のシステムに集約され、私物端末やメッセージアプリを顧客対応に使う場合のルールが社内規程等で決まっているか
  • 顧客情報が営業秘密であることが明示され、顧客名簿へのアクセス権限が役割に応じて決められ、出向者についても出向元への情報流出を防ぐ範囲に限定されているか

退職時

  • 最終出社日や権限終了時点に合わせて、アカウント停止、貸与端末の回収、データの複製・持出しの確認を行っているか
  • 担当顧客への引継ぎを、会社として顧客に連絡して行っているか

人事と情報管理を、別々の業務にしない

採用は人事、情報管理はコンプライアンス。この分担のままでは、採用面接の場で誰が持込みを防ぎ、退職手続きの場で誰が持出しを確認するのか、責任の所在が曖昧になりかねません。

必要なのは、人事と情報管理を別々の業務として扱わないことです。採用時に何を確認し、在籍中に誰が情報を管理し、退職時に何を検証するのか。それぞれの責任者と手順を定め、実際に運用されているかを確認する。新しい規程を増やすこと以上に、こうした仕組みを日常の経営管理に組み込むことが重要です。

関連コラム:売上上位の募集人への点検・指導という「誰を監督するか」の論点は「トップ営業を、会社は監督できているか」をご覧ください。

「中途採用や退職のたびに、顧客情報がどう動いているか把握できていない」

そうした段階でも構いません。採用・退職時に確認すべき事項の棚卸しから、顧客情報管理の優先順位まで、KIBANの30分無料相談で一緒に整理します。

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よくある質問

前職のお客様に、転職の挨拶をすることも禁止すべきですか

一律に禁止すべきとは限りません。顧客が自らの意思で担当者を選ぶことは尊重されるべきです。ただし、前職の名簿やデータに基づいてお客様に連絡することは別の問題です。どこまでが許されるかは個別の事情によるため、方針を決める際は弁護士に確認することをおすすめします。

募集人が数名の代理店でも、ここまで必要ですか

規模が小さいほど、一人の退職で失う顧客情報の割合は大きくなります。まずは、顧客情報を私物端末ではなく会社の管理する場所に置くこと、退職時のチェックリストを作ることから始めるのが現実的です。

M&Aで代理店を譲り受ける場合、顧客情報の引継ぎに問題はありませんか

M&Aの形態が株式譲渡なのか事業譲渡なのかによって、顧客情報の取扱いは異なります。株式譲渡では、顧客情報を保有する会社そのものは変わりません。事業譲渡などで別法人に個人データを移す場合、事業の承継に伴って提供を受ける者は、本人同意が必要な「第三者」に該当しないものとされています。ただし、承継後に、承継前の利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱う場合には、原則として本人の同意が必要です。また、保険会社との委託契約上の確認や、デューデリジェンス段階での情報提供の管理が不要になるわけではありません。

まとめ——KIBANからの提言

顧客との信頼関係を築くのは、一人ひとりの募集人です。その個人的な関係性こそが、保険代理店の競争力を支えている面もあります。しかし、顧客との関係を募集人個人に依存することと、顧客情報の管理まで個人に委ねることは、同じではありません。

顧客情報の管理は、コンプライアンスの問題である前に、採用方針や営業モデルの問題です。どのような人材を採用し、その人材に何を期待するのか。顧客情報をどのように取得・管理し、退職時にどう引き継ぐのか。これらは別々の問題ではなく、ひとつの経営判断として設計されるべきものです。

優秀な募集人が入社しても、退職しても、顧客情報の適切な管理が維持される。それが、個人の営業力を組織の経営基盤へと変える条件ではないでしょうか。

KIBANは、保険代理店の「外部経営管理本部」として、人事管理と顧客情報管理を一体で捉え、持続可能な経営管理体制の構築を経営者とともに考えています。個別の法的判断については、顧問弁護士と連携して対応します。

参照した主な情報源

  • 金融庁「プルデンシャル生命保険株式会社、ジブラルタ生命保険株式会社及びプルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン株式会社に対する行政処分について」(2026年10月9日) 金融庁ウェブサイト
  • e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第18条、第20条、第23条、第24条、第27条) e-Gov法令検索
  • e-Gov法令検索「不正競争防止法」(第2条) e-Gov法令検索
  • e-Gov法令検索「保険業法」(第294条の3) e-Gov法令検索
  • 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」II-4 業務の適切性 金融庁ウェブサイト

監修者プロフィール

足立格 弁護士
足立 格あだち・いたる
弁護士|紀希綜合法律事務所

東京大学卒。2003年弁護士登録。日本を代表する大手法律事務所・森・濱田松本法律事務所等を経て2025年に独立。20年以上にわたり保険業法をはじめとする金融規制を専門とし、メガバンクの金融商品販売業務や保険会社グループの内部管理態勢構築、保険代理店の募集管理態勢の整備、金融庁等監督官庁への報告・検査対応を多数手がける。日本損害保険協会、全国地方銀行協会など業界団体での講演実績も多数。

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