生命保険会社が、乗合代理店との関係を見直している。一つの契機は2025年8月6日である。複数の生命保険会社が金融庁から、乗合代理店との適切な関係性の構築に向けた取組みについて、保険業法第128条第1項に基づく報告徴求命令を受領した。各社は同年9月、今後の取組方針を相次いで公表している。
2026年に入ると、動きは次の段階に進んだ。命令を受けた各社が4月以降に進捗を公表する一方、6月30日には第一ライフグループ、9月29日には三井住友海上あいおい生命も、乗合代理店との適切な関係性構築に向けた取組みを公表した。行政対応を一つの契機として始まった動きが、改正保険業法や監督指針の見直しを背景に、生命保険業界全体の課題へと広がりつつある。なお本稿は生命保険会社の公表資料を対象とし、損害保険業界の動向は扱わない。
一連の公表は、一見すると保険会社による過度な便宜供与や出向を是正する対応に見える。しかし各社の取組みを横断的に見ると、対象は比較推奨販売、代理店の業務品質、自己点検、代理店検査、改善指導、さらには保険会社自身の営業評価や内部管理態勢へと広がっている。その先に見えるのは、代理店を単に「商品を販売してもらう相手」としてだけではなく、一つの経営主体として捉え、その業務品質や管理態勢を検証する関係への変化である。
各社の公表資料には濃淡があり、同じ項目が同じ粒度で開示されているわけではない。したがって単純な優劣比較は適切ではないが、何を課題と認識し、どう対応しているかを並べると、共通する方向性が見えてくる。
| 会社 | 方針等の公表 | 進捗等の公表 | 公表資料から確認できる主な論点 |
|---|---|---|---|
| 東京海上日動あんしん生命 | 2025年9月8日 | 2026年4月16日 | 営業推進策の見直し、代理店の教育・管理・指導、品質を重視した手数料評価、企業風土の変革 |
| SOMPOひまわり生命 | 2025年9月8日 | 2026年4月16日 | 便宜供与等の判断基準、代理店の顧客本位の業務運営を評価する体系 |
| アフラック生命 | 2025年9月8日 | 2026年5月1日 | 3つのラインによる内部統制、代理店検査時の比較推奨ヒアリング、代理店の教育・管理 |
| メディケア生命 | 2025年9月8日 | 2026年5月1日 | 対等なビジネスパートナーとしての関係、教育・指導・管理、問題発生時の毅然とした対応 |
| なないろ生命 | 2025年9月12日 | 2026年5月1日 | 比較推奨販売に係る態勢全般の見直し、過度の便宜供与防止 |
| はなさく生命 | 2025年9月8日 | 2026年5月1日 | 便宜供与・出向に関する規程と2線・3線によるチェック、代理店の公平・公正性確保の体制整備と代理店監査 |
| アクサ生命 | 2025年9月17日 | 2026年5月1日 | 便宜供与の判断基準・プロセスの高度化、代理店の比較推奨販売の体制整備、各種施策の見直し |
| FWD生命 | 2025年9月9日 | 2026年6月2日 | 施策の事前審査・承認、大型乗合代理店への検査、品質課題に応じた評価引下げ・契約解除等 |
| 第一ライフグループ(第一生命ほか) | ― | 2026年6月30日 | 比較推奨販売の適切性確保、便宜供与・出向に関する社内規程の新設、営業施策の事前検証 |
| 三井住友海上あいおい生命 | ― | 2026年9月29日 | 便宜供与・出向・比較推奨に関する社内規程の整備、代理店監査と販売動向モニタリング、改善なき場合の手数料措置・契約解除、3線管理と経営会議・取締役会への報告 |
注:各社の公表資料をもとに保険代理店経営学研究所が整理。公表資料の記載内容を要約したものであり、記載の有無によって各社の取組みの有無や程度を評価するものではない。また、各社の公表の背景・位置付けは必ずしも同一ではない。
並べてみると、これは個々の生命保険会社に固有の取組みではない。保険会社と乗合代理店との関係をどう再構築するかという、業界横断的な課題になりつつあることが分かる。
関係見直しでまず注目されたのが、便宜供与と出向である。生命保険協会は2025年9月16日、「保険代理店等に対する便宜供与及び出向に関するガイドライン」を策定した。
ただし、問題は便宜供与そのものだけではない。同ガイドラインが指摘するとおり、問われているのは、便宜供与の見返りとして募集人が特定の保険会社の商品を優先的に推奨し、顧客の適切な商品選択の機会が阻害されるおそれである。構造を単純化すれば、次の連鎖になる。
そう考えると、便宜供与と比較推奨販売は別々の問題ではない。同じ問題を、保険会社側と代理店側から見ているともいえる。
実際、各社の取組みは便宜供与の見直しにとどまらず、比較推奨販売の適切性、代理店の規程や記録、募集人教育、自己点検、代理店検査、改善指導へと広がっている。
アフラック生命は、事業部門、管理部門、内部監査部門を3つのラインとする内部統制により、保険募集に係る内部統制を確保する態勢を整備している。2026年4月からは、大規模な乗合代理店への代理店検査の際に、比較推奨販売の体制整備状況と実際の運用をヒアリングしている。東京海上日動あんしん生命も、乗合代理店を教育・管理・指導することを保険会社としての役割と責任と位置付け、営業推進策と営業現場の実態を経営として把握・検証するPDCAを進めている。
ここから、保険会社の役割が二つに分かれてきていることが分かる。一つは、自らの営業活動が代理店の商品選択を歪めないよう統制すること。もう一つは、代理店が顧客本位の募集を行う態勢を構築し、それが実際に機能しているかを教育・管理・指導することである。自社商品の販売を増やすために代理店を「支援する」だけではない関係が、明らかに加わっている。
この変化は、代理店側から見るとさらに大きい。これまで保険会社は、商品研修、募集ツール、システム、場合によっては人材派遣を通じて、代理店の営業活動を支援してきた。こうした支援がなくなるわけではないが、これから代理店に問われるのはそれだけではない。
どの保険会社・商品を取り扱うのか。その中から何を基準に選ぶのか。顧客にどの商品を、なぜ推奨するのか。その判断をどう記録するのか。実際の募集がルールどおり行われていることを、誰がどう確認するのか。こうした問いに、代理店自身が答えなければならない。これは単なる募集ルールの問題ではなく、代理店自身の経営管理の問題である。
興味深いのは、管理を求められているのが代理店だけではないことである。東京海上日動あんしん生命は2026年4月の進捗公表で、代理店との関係において、お客様の視点よりも代理店からの評価を優先する企業風土が次第に醸成されていったことを重く受け止めると記している。そのうえで、経営主導の再発防止、代理店の教育・管理・指導、営業推進策の検証を進めている。
これは象徴的である。問題を「代理店が適切に販売していたか」だけで捉えず、「保険会社自身の営業行動が代理店の行動にどう影響していたか」まで遡って検証しているからである。「どれだけ売ってくれる代理店か」から「顧客本位の募集を継続的に行える代理店か」へ、評価の軸が移り始めている。
各社の動きは、代理店の体制整備をめぐる制度の流れとも重なる。特定大規模乗合保険募集人に対する体制整備義務が強化された。
規程がある、責任者がいる、研修をしている、自己点検をしている。それだけでは十分ではない。問われるのは、それらが実際の募集活動の中で機能しているかどうかである。
仕組みの面でも、その方向は明確になっている。生命保険協会が運営する自己点検ウェブシステムでは、自己点検は、代理店内部だけで完結するチェックではなくなっている。規程や責任者が「ある」ことだけでなく、それらが実際に機能していることを説明できる態勢が、これまで以上に重要になる。
生命保険協会は2026年7月23日、「募集代理店の体制整備」ページを公開し、保険募集人の体制整備、便宜供与・出向、募集代理店共通自己点検、法令等遵守責任者などを一つの体系として示した。個々の制度を別々に見ると、その意味を見誤る。これらは、代理店を一つの経営主体として捉え、その内部管理を実効的なものにしていくという方向でつながり始めている。
金融庁は2026年8月28日、乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保に向けた内閣府令・監督指針等の改正を公表し、施行・適用日を2028年3月1日とした。代理店独自の推奨理由による、いわゆるハ方式は廃止される。
実務上の準備期間が設けられた一方、金融庁は同じ公表の中で、改正後の内閣府令の施行日及び監督指針の適用日を待つことなく、可能な限り速やかに体制整備を行い、比較推奨販売を適切に実施することが望ましいとしている。つまり「2028年3月1日まで待てばよい」という制度ではない。保険会社による代理店管理も、すでに変わり始めている。
今後代理店には、「比較推奨規程がありますか」だけでなく、次の問いへの答えが求められるだろう。実際にどのような基準で商品を選んでいるか。その基準は誰が決めたか。募集人はその基準を理解しているか。推奨理由を記録しているか。その記録を誰が検証しているか。
そう考えれば、2028年3月1日は準備を始める日ではない。それまでに自社の募集モデルを実際に動かし、問題点を確認し、修正しておく必要がある。比較推奨対応が「規程改定」ではなく「募集モデルの再設計」である理由もここにある。
関係見直しは、ともすると「保険会社が代理店に何をしてはいけないか」という規制論として語られる。しかし代理店経営の観点からは、もう一つの側面がある。便宜供与や人的支援への依存が見直されれば、保険会社が事実上補ってきた機能の一部を、代理店自身が担わなければならなくなる。
コンプライアンス、人材育成、募集管理、自己点検、内部監査、システム選定、経営企画。保険会社との関係が適正化されるほど、代理店にはこうした機能を自ら持つことが求められる。保険会社による「支援」への依存が小さくなるほど、代理店自身の「経営」が重要になるのである。
これは負担の増加にとどまらない。保険代理店が、保険会社の販売チャネルから一つの独立した経営主体へと変わっていく過程と見ることもできる。
保険会社と代理店との「適切な関係性」とは、保険会社が代理店を支援しないことでも、管理を一方的に強めることでもないはずである。保険会社は、自らの営業活動が顧客の商品選択を歪めないよう統制する。代理店は、自らの商品選択と推奨を経営として判断し、その妥当性を説明できる態勢をつくる。そして保険会社は、その代理店を教育・管理・指導する責任を果たす。この三つが成立して初めて、適切な関係性と呼べるのではないか。
比較推奨販売、便宜供与・出向の適正化、体制整備義務、自己点検、業務品質評価。一連の変化をつなげると、保険代理店の位置付けそのものが「売ってもらう代理店」から「自ら判断し、自ら管理し、その判断を説明できる経営体」へと変わろうとしている。
その先にあるのは、代理店が保険会社から切り離されることではない。互いの役割と責任を明確にしたうえで、代理店が自ら経営判断し、自ら管理し、その結果に責任を持つ経営基盤を備えることである。保険代理店が一つの産業として自立するために必要なのは、保険会社からの「独立」そのものではない。自らの経営を、自ら担えるようになることなのである。