KIBAN株式会社|保険代理店の外部経営管理本部
労務・社会保険 専門家監修・特別編

ベテラン募集人の働き方が変わる

——在職老齢年金「65万円時代」の高齢募集人戦略

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監修:西村徹也 特定社会保険労務士
監修:西村 徹也 特定社会保険労務士
インスワーク社会保険労務士法人 代表

保険代理店専門の社会保険労務士による監修のもと、法令・制度の記載を確認しています。監修者プロフィール

「これ以上働くと年金が減るから、仕事は更改だけでいいよ」――そんなベテラン募集人の声を聞いたことはないでしょうか。2026年4月、在職老齢年金の支給停止基準額が月51万円から65万円へ引き上げられ、働き方を見直す余地が広がりました。人手不足と募集人の高齢化が進む保険代理店にとって、これは単なる年金制度の変更ではありません。本稿では、まず確認したい「65歳までの雇用制度」、定年後の役割と処遇の考え方、そして定年後の時間を「承継」に使うという設計を整理します。

「年金が減るから、働くのを抑える」が変わる

「これ以上働くと年金が減るから、仕事は更改だけでいいよ」――そんなベテラン募集人の声を聞いたことはないでしょうか。

厚生年金を受給しながら働く場合、賃金と老齢厚生年金の合計額が一定の基準を超えると、年金の一部または全部が支給停止される「在職老齢年金」の仕組みがあります。この支給停止の基準額が、2026年4月から月51万円から65万円へ引き上げられました

つまり、これまで「年金が減るから」と収入を抑えていた人にとって、働き方を見直す余地が広がったということです。

保険代理店にとって、これは単なる年金制度の変更ではありません。人手不足や募集人の高齢化が進むなかで、「経験豊富な人材に、もう少し長く活躍してもらう」という選択肢が、これまでより考えやすくなったといえます。では、この変化を保険代理店経営にどう活かせばよいのでしょうか。

まずは、「65歳まで」の雇用制度を確認する

高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用確保措置が事業主に義務付けられています。定年制の廃止、65歳までの定年引上げ、希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度――いずれかの措置によって、65歳までの雇用機会を確保する必要があります。

ここで確認したいのが、就業規則です。古い就業規則には、「65歳までの継続雇用の対象者は、勤務成績等の基準を満たす者に限る」といった規定が残っていることがあります。

かつては、労使協定で継続雇用の対象者を限定する基準を定めることが認められていました。しかし、2013年の法改正で、継続雇用制度の対象者を労使協定で限定できる仕組みは廃止され、既に定められていた基準を使い続けることができる経過措置も2025年3月31日で終了しています。そのため現在は、こうした旧来の基準が就業規則に残っていないかを確認することが重要です。

もちろん、継続雇用を希望すれば、どのような場合でも必ず雇用しなければならないという意味ではありません。就業規則上の年齢に係るものを除く解雇事由・退職事由に該当する場合などについては、個別の判断が必要です。なお、こうした場合の取扱いは、継続雇用の規定にもあらかじめ明記しておくことが実務上は望ましいところです。まずは、「自社の就業規則が、現在の制度に合っているか」を確認しましょう。

定年後は、「同じ仕事を続ける」だけで考えない

雇用制度を確認したら、次に考えたいのが、定年後の働き方です。ここで、「今までと同じ仕事を続けてもらうか、退職してもらうか」という二択にする必要はありません。ベテラン募集人であれば、これまで培ってきた経験を活かして、さまざまな役割を考えることができます。たとえば、次のような働き方です。

  • これまで担当してきた顧客を引き続き担当する
  • 更改や事故対応など、経験が活きる業務に重点を置く
  • 若手・新人募集人の指導を担う
  • 顧客情報や契約経緯の整理・記録を担う
  • 後任者との同行や引継ぎを担当する

そして、こうした働き方を考えるときに、一緒に考えたいのが「処遇」です。

賃金だけではなく、「役割」とセットで考える

定年後の再雇用などで労働条件を見直すこと自体は可能です。ただ、「定年になったから一律に賃金を下げる」という考え方だけで処遇を決めるのは避けたいところです。業務内容、責任、勤務日数・時間など、労働条件全体を踏まえて、なぜその処遇になるのかを説明できる設計にしておくことが重要です。

たとえば、「これまでと同じように営業を続けてもらう」のか、「担当顧客を少しずつ後任者に移しながら、若手の指導も担ってもらう」のか。役割が変われば、勤務日数や時間、責任の範囲なども変わってきます。

だからこそ、「いくら払うか」から考えるのではなく、「どんな役割を担ってもらうか」から考える。この順番で、定年後の働き方と処遇を設計していきましょう。

「給付があるから賃金を下げる」という設計も見直す

もう一つ、これまでの高齢者雇用で意識されてきたのが、高年齢雇用継続給付です。この制度は、一定の要件を満たす60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者について、60歳以降の賃金が60歳時点と比べて低下した場合に、その一部を給付するものです。2025年4月1日以降に60歳に達する日を迎えた人からは、支給率の上限が従来の15%から10%に変更されています。また今後は、2025年4月からの支給率引下げの施行状況などを見つつ、段階的な縮小や廃止も含めて引き続き検討されています。

そのため、「賃金を下げても、高年齢雇用継続給付があるから大丈夫」という前提で処遇を設計することは、これまで以上に慎重に考える必要があります。給付を前提にするのではなく、会社として、どんな仕事を、どのくらいしてもらいたいのか。その働き方に対して、どのような処遇が適切なのか。まずはこちらから考えることが大切です。

そして、本当に考えたいのは「承継」です

ここまで、年金制度や雇用制度、処遇について見てきました。でも、保険代理店にとって本当に重要なのは、ここからです。

ベテラン募集人の退職は、単なる「1人の人員減」ではありません。その人が長年築いてきた顧客との関係、契約に至った経緯、更改時の注意点、事故対応の経験、顧客ごとの事情。こうした情報やノウハウが、本人の中だけに残ったまま退職してしまえば、会社に蓄積されることなく、一緒に外へ流出してしまいます。

だからこそ、定年後も働いてもらえる時間を、「もう少し営業してもらうための時間」だけで終わらせない。次の世代に引き継ぐための時間として活用する。ここに、高齢募集人を雇用する経営上の意味があります。

定年後の時間を、「承継」に使う

たとえば、次のような設計が考えられます。

① 顧客情報を「人」から「会社」へ移す

担当者しか知らない契約経緯や顧客事情を、募集記録や顧客管理の仕組みの中に残していく。「このお客様のことは、○○さんに聞かないと分からない」という状態を、一つずつ減らします。

② 後任者との「併走期間」をつくる

いきなり担当を交代するのではなく、一定期間はベテランと後任者が一緒に顧客を担当する。更改や訪問の機会を、顧客との関係を引き継ぐ時間として活用します。

③ 「教える仕事」を正式な役割にする

経験豊富な募集人に、若手の指導や案件のチェック、事故対応のサポートなどを担ってもらう。本人の経験を会社の資産として活かしながら、次の世代を育てることができます。

65歳は「引退する年齢」ではなく、「役割を変えるタイミング」かもしれない

在職老齢年金の支給停止基準額が引き上げられたことで、ベテラン募集人の働き方には新しい選択肢が生まれました。もちろん、何歳まで、どのくらい働きたいかは人によって違います。だからこそ会社が一律に「65歳を過ぎても働いてもらう」と決めるのではなく、「どんな働き方なら、もう少し続けたいと思ってもらえるか」を本人と話し合うことが大切です。

そして会社側も、その時間を単なる人手不足の穴埋めに使うのではなく、顧客・ノウハウ・人材を次の世代につなぐ時間として設計する。65歳以降の雇用を、法対応のコストではなく、保険代理店の承継を進めるための時間。そう考えてみてはいかがでしょうか。

実務チェック

ベテラン募集人の定年を迎える前に、自社の状態を確認してみてください。

  • 就業規則に旧来の継続雇用の対象者基準が残っていない
  • 定年到達者への意思確認の手順が決まっている
  • 定年後の役割・勤務日数・勤務時間を本人と話し合っている
  • 再雇用後の処遇を、職務内容や責任等と合わせて説明できる
  • ベテランの顧客情報・ノウハウを記録化している
  • 後任者との併走期間を設けている
  • 若手指導など、経験を活かす役割を設けている
  • 定年後の働き方を「承継」の観点から設計している

「考えるべきこと」は分かった。でも、手が回らない。

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  • 改正高年齢者雇用安定法9条(高年齢者雇用確保措置)――労使協定による対象者限定の経過措置は2025年3月31日で終了
  • 年金制度改正法(令和7年法律第74号)――在職老齢年金の支給停止調整額の引き上げ(2026年4月施行。改正法上の62万円〈2024年度価格〉が年度改定を経て令和8年度適用額は65万円)
  • 雇用保険法――高年齢雇用継続給付の支給率縮小(2025年4月以降に60歳到達した者から最大10%)
  • パートタイム・有期雇用労働法8条(不合理な待遇差の禁止)

監修者プロフィール

西村徹也 特定社会保険労務士
西村 徹也にしむら・てつや
特定社会保険労務士|インスワーク社会保険労務士法人 代表

損害保険ジャパンの出身。代理店業務開発部長として代理店経営支援に携わったのち、東京労働局 雇用環境・均等部 指導課で働き方改革担当として中小企業の労務改善を支援。2022年に保険代理店専門の社会保険労務士法人を設立し、保険代理店固有の労務リスクに精通する。中央大学法学部卒。

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※本記事は執筆時点の法令等に基づく一般的な解説であり、個別の判断は専門家にご相談ください。在職老齢年金・高年齢雇用継続給付の適用や金額は個々の状況により異なります。就業規則・継続雇用規定の作成や改定、再雇用時の労働条件に関する個別の判断は、社会保険労務士等の専門家の領域です。

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